当時私は、買ったばかりの中古車に乗って、毎日、近場にドライブをしていた。
車の運転が好きだったのだ。
そんな矢先、アルバイト情報誌の一文が目に留まった。
『車の運転が好きな人、集まれ!』
車関係のバイトだと思ったが、そうではなかった。
それは、あるガソリンメーカーのバイトであった。
自前の車を使って地方都市のガソリンスタンドへ行き、客のカウントを取ってくる、という
あまり聞きなれない内容だ。
もちろん、交通費は出る。高速代も出る。交通費は出るが、宿泊費は出ない。
変なバイトだ。車中泊をしろとでも言うのか。
でも、遠くまでドライブをして簡単な作業をするだけで、お金がもらえるなら。
と、心が動く。
ドライブを楽しもう、とさえ思えてきた。
なんなら、サービスエリアで美味しいものでも食べてみようと思えた。
バイトの応募をして、説明会に出向くと、面接などは一切なく、勤務地の詳細を書いた
紙と、交通費受け渡しのルール説明などがあった。
持ち物は、カウンター(人数を把握するための、カチカチとやる、アレですね)のみ。
なんとも気楽なバイトとなりそうだと思った。
勤務地を見てみると、茨城県石岡市とある。
出発は横浜市だから、全然遠くない。遠くないどころか石岡市には親戚がいる。
そこに泊まれば、車中泊も逃れられるではないか。
私は小躍りした。
楽しい旅になりそう!・・・なはずだった。
勤務時間は、朝7時~夜7時だった為、夜中の出発となった。
夜の間中、暗い暗い常磐高速道路をひたすら走った。
暗くて何もみえず、窓をあけると、かすかに牛糞のにおいが漂ってくる。
眠い。何だこりゃ、、全然楽しくないんですけど。
やっぱり楽しくてお金が貰えるなんて、考えが甘かったのか。
考えてもみれば、こんなカウントのバイトなんて、現地で人を調足すれば
良いのではないか?
ガソリンスタンドのバイトを使えば、こんな高速代もかからずに済むものを
なぜわざわざ東京で人を雇って派遣させるような真似をするのか。
理解に苦しむ。
眠すぎて、どんどん思考がネガティブになってくる。
そこで問題がおきた。
茨城に入ってすぐ、細い道路から、大きな幹線道路に右折で入ろうとしたその時、誤って
対向車線に入ってしまったのだ。
早朝すぎて車が1台も走っていなかったので、道路を見誤ってしまった。
幸い、対向車がくる前にバックで戻り、事なきを得たのだが、あまりに眠くあまりに焦っていたため、
バックをする際、オレンジのミラーの柱に思い切り後ろのバンパーをぶつけてしまったのだ。
ぐしゃり!!!
この世のものとは思えない、なんとも悲しい音が響いた・・・。